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髙梨さん - マッシュルーム


旭市高生でマッシュルーム農家を営む髙梨さん。家族4人で月間約2トンの質の高いマッシュルームを出荷しています。「育て上げたマッシュルームは自分の作品だと考えています」とは髙梨さん。お話をお伺いしました。

シンプルな製法だからこそ丁寧な仕事にこだわる

うちは昔ながらの栽培方法で育てています。マッシュルームを育てる上で一番大切なのは堆肥です。そのためにJRAの美浦トレーニング・センターから敷き藁を買い、そこに鶏糞や添加物などを加えて一次発酵させた後、室内で二次発酵させて堆肥を作っています。発酵の段階で敷き藁が60℃から80℃に発熱するため、アンモニアや害虫、病原菌を除去できます。


発酵後に菌をまいた敷き藁

この後、堆肥にマッシュルームの種菌をまいて菌が拡がり始めた頃に、上からブラックピート(マッシュルーム培養土)を被せて、より繁殖しやすい状態を作ります。その後、冷たい空気を送り込み、菌にショックをかけることで、拡がっていた菌が寄り集まってマッシュルームが形成されます。


発酵から収穫までおよそ50日です。棟内の炭酸ガス濃度や虫の防除(蝿や蛆が少し舐めただけでマッシュルームの色が変ります)、断熱、水分量などに気をつけながら、家族4人で毎月約2トンを出荷しています。

収穫までもう少し・・・

収穫後は、ひとつずつ根を切って、水洗いした上で出荷しているため、お客様は納品後すぐに使うことができます。これはホテルからの引き合いが多かった時代の名残ですが、お客様に喜んでいただいているため、いまでもこの出荷方法を続けています。


収穫、根切り、水洗い、乾燥、出荷作業、すべて手作業で行っています。昔ながらのシンプルな製法だからこそ、丁寧な仕事にこだわり、栽培する環境や使用する菌床にも手を抜かず、減農薬に努めながら一年を通して栽培しています。

傷をつけないように1本ずつ丁寧に収穫します

収穫直後のマッシュルームはまるで繭のように真っ白でふっくら

専用ハサミで1本ずつ根を切ります

根切り後はシンクで水洗いします

水洗い後は乾燥させて出荷まで待ちます

パック詰め作業:サイズを分け、計量して包装機へ


40年前の包装機は未だ現役
両親への感謝と家業を継ぐ意志

マッシュルーム栽培は父がはじめました。もともとはマッシュルームではなく一般の農家で野菜を作っていましたが、農閑期に出稼ぎにいきたくなかったことと、通年で収穫できる商品を扱いたいということで、いまから45年前に友人に誘われてマッシュルームを始めたそうです。


当初、栽培したマッシュルームは缶詰用として加工屋さんへ卸していましたが、なかなか費用対効果が悪く2年後には撤退しました。その後、うちを含めた三軒のマッシュルーム農家で「海上マッシュルーム組合」を立ち上げて、農協さんを主とした生食販売へシフトしました。

組合立ち上げ当時の写真(下段中央がお父さん)

物心つく前から、わたしはマッシュルームに没頭する父と母の背中を見て育ちました。両親は毎日働いていたので、家族旅行は小学校6年生の時に一度だけでした。「もっと家族で遊びに行きたい」と、心の中で思ってはいましたが、口にした記憶はありません。


マッシュルームは毎日収穫できるようにしています。収穫するだけ子供を養うことができるので「両親はわたしたちのために懸命に働いてくれている」そんなことを幼いながらに感じ取っていたんだと思います。

中学卒業後は、旭の農業高校に進学しました。幼い頃からなんとなく「継ぐことになるのかな」と心にあったんですが、高校進学時には「家業を継ぐ」というしっかりした意志に変わっていました。毎日休まずに働いていた両親への感謝が、心を動かしたんだと思います。卒業後は短大へ進学して、その後家業に入りました。


入ってみて初めてわかったことは「これは休めない」「思ったより儲からない」この二つでした 笑。「本当は休もうと思えば休めるんでしょ?」とか「(当時は)珍しい業種だから儲かるんでしょ?」と、家業に入る前のわたしは勝手に考えていたんですね。本当に甘かったです 笑。


それでも丁寧な栽培の方法、病気や害虫対策、堆肥作りなど、基本的なことを父から教わり、何度も失敗して覚えていきました。それから6年後、27歳での結婚を機に経営を任されることになりました。


水洗い直後のマッシュルームは本当にツヤツヤ
試行錯誤の末に行き着いた自分の作品

2003年、農薬取締法が改正されました。


それまではカビなどを抑制するために、多少の農薬を堆肥や(当時はピートの代わりだった)赤土に使用していましたが、改正以降は一切使わなくなりました。そしてそれまで使っていた国産の種菌は、需要に応えられるだけの収穫量がなかったため、種菌を外国産に変更しました。しかし外国産の種菌は、菌の発生や拡散のボリュームが全く違うため、父から受け継いだ技術に加えて、新たな栽培方法を模索する必要がありました。


例えば生育する上で最も大切な堆肥については、水分量や攪拌させる回数、鶏糞や添加物など熱源の種類、それらの割合や配合方法など、試行錯誤は数年間に及びました。そうやって作り上げた自分でも納得できるマッシュルームが「販売のプロ」である仲買さんから「髙梨のマッシュルームは他とは違う」と評価をいただいたときに初めて、自分のマッシュルームに自信をもつことができました。嬉しかったです。

1棟あたり6段の菌床があります。5つの棟の生育時期をずらして回転させ、毎月約2tを出荷します

育て上げたマッシュルームは自分の作品だと考えています。

だから、一番おいしい時期に一番キレイなものを出荷したい。そう思っています。


うちは収穫後に水で洗浄して、根を切った状態で出荷しています。だから無洗いのマッシュルームと比べて足が速いんです。足が速い分、普通のマッシュルームよりも早い時期に収穫しています。例えば、新鮮なマッシュルームは傘の裏がピンク色をしています。

新鮮なマッシュルームは傘の裏がピンク色

このピンク色がだんだん濃くなり、最後には真っ黒になってキノコっぽさが増していくんです。うちはピンクになる前の段階、この真っ白な状態で収穫するようにしています。


このほうが日持ちもするし歯ごたえも締まっています。成長する直前のため足が太くてずっしりしています。こだわっているからこそ「他とは味が違う。おいしい」って言われれば嬉しさも倍増ですよね。そんなところにやりがいを感じています。

髙梨さんはピンクになる前の真っ白に締まった状態で収穫

続けていくことの厳しさ

でも正直なところ、経営は楽ではありません。所属する海上マッシュルーム組合の組合員数は、最盛期には22の農家がいましたが、いまは後継者不足などで13まで減少しています。そして競合となるのは、会社化された大規模なマッシュルームファームなんです。


彼らはひとつの会社で、うちの組合の5倍以上を出荷します。特に夏場は需要が少ない上に、市場に出回る量も多く価格が下落します。マッシュルームは他との差別化が図り難い商品のため、どんなにこだわって作っても、それらと同等に見られてしまい値段がつかないんです。個人的には納得がいきませんがしょうがない。そういう世界だと思っています。


それでも負けずに、規模が小さくてもこだわって作る農家さんは、これからも残るべきだと思います。しかし、現実は厳しいと感じています。20年近くかけてたどり着いた製法を維持しながら収穫量を増やしていくには、人と設備投資が必要です。しかし毎日の収穫、出荷、育成、堆肥作り、管理など、いまは現状を維持していくことでいまは手一杯なんです。

高1と中2の息子がいますが、将来はまだ決まっていないと言います。息子たちが小さいころは、家族旅行も多少無理して行くようにしていました。そしてわたしがそうだったように、もし息子たちが「継ぐことになるのかな」となんとなく思っていたとしても、個人的にはすすめたくありません。家のことは気にせずに、自分のやりたいことをやってほしいと思っています。


そんな状況ですが諦めずに、規模が小さいからこそできることを模索していますが、あと20年くらい続けばいいかな、悲しいけれどそれが本音です。だから今あるうちに「わたしの作品」をたくさんの人に食べてもらいたいと思っています。


KOUシェフから

遡ること10年前、海上のマッシュルーム農家さんを訪れました。ホテルの料理人たちの見学会でした。そのとき全員が口を揃えて「おいしい」と言ったマッシュルームは、こちらの髙梨さんをはじめとする海上マッシュルーム組合さんの商品でした。


ホテルでもいろいろな所からマッシュルームを取っていましたが、ここのマッシュルームが一番味が濃く、美味しく感じました。いつか自分でお店をやるときはここのマッシュルームを使いたいと、ずっと思っていました。

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